JICA地球ひろばでは毎年、全国の小・中・高校、特別支援学校等の学校管理職および教育行政関係者を対象に、教師海外研修(教育行政コース)を実施しています。
今回のコラムでは、2022年度と2023年度に同研修に参加した2名の先生に、研修で得た学びをスクールリーダー(学校管理職)としてどのような活動に広げ、継続されているのか、お話を伺いました。

▼目次

新井 誠司 先生(和洋九段女子中学校高等学校 教頭)
2022年度JICA教師海外研修(教育行政コース)参加(エジプトで海外研修)

  1. エジプトで気づいた「情熱」と「ワクワク」の大切さ
  2. 新たなチャレンジをし続け、行動者であり続けるスクールリーダー
  3.  「一歩踏み出す」 勇気の連鎖
  4. 互いに刺激し合い、変容し続けるスクールリーダーの結束
  5. 新しい自分に出会うための一歩!

田崎 潤 先生(群馬県立尾瀬高等学校 校長)
2023年度JICA教師海外研修(教育行政コース)参加(カンボジアで海外研修)

  1. カンボジアでの経験から学ぶ、子どもたちがエージェンシーを発揮できる教育
  2. 生徒主体の海外研修と開発教育の推進
  3. 尾瀬高校から世界へ!教員と生徒の広がる視野
  4. 群馬の学校で広がる異文化理解
  5. 新たな挑戦で自分自身をバージョンアップ!

執筆者

新井 誠司 先生
和洋九段女子中学校高等学校 教頭
2022年度JICA教師海外研修(教育行政コース)参加者

1. エジプトで気づいた「情熱」と「ワクワク」の大切さ

Q. 2022年度の教師海外研修(エジプト)では、どのような学びや気づきがありましたか。
印象に残っている経験や、そこから得た学びについて教えてください。

A. エジプトで最初の訪問先であったター公民館のアブデル・ミギード・モハメッドさん、バサント・アハメドさんのお話から、行動者であり続けるための姿勢として、「情熱(使命感)」と「ワクワク(楽しむこと)」が大切だと気づきました。それらは行動する原動力の源泉となるとともに、周囲に対して最も影響力があるものとなります。使命感を伴う行動の中に「楽しさ」があることで、多くの人が賛同し、継続性のある組織が形作られていくと感じました。

2022年度JICA教師海外研修(教育行政コース)@エジプトにて

2. 新たなチャレンジをし続け、行動者であり続ける
スクールリーダー

Q. エジプトでの学びや経験を、スクールリーダー(学校管理職)としてどのような活動に広げ、継続されていますか。現在取り組んでいる活動について教えてください。

A. スクールリーダーを担う者が、自分の直感を信じて新たなチャレンジをし続けること、行動者であり続けること。それを見て「楽しそうだな」と感じてくれる先生や生徒たちが増えていくことで、”積極的に行動する集団”が生み出されていくと考え、渡航後もチャレンジし続けています。
生徒たちには、勇気ある一歩を踏み出すことからすべてが始まること、失敗を恐れず挑戦し続けることの大切さを、オリエンテーションや進路説明会などを通じて話しています。

また、本校では継続的に、小学生向けの新しい視点を手に入れるためのワークショップを開催しています。私がファシリテーターを務めることが多いのですが、その中でエジプトを題材として”当たり前”を見直す機会を提供しています。これは自分自身がエジプトで感じてきたことであり、その輪を少しでも広げていくことが研修参加者の一人として大切なことだと思っています。

3. 「一歩踏み出す」 勇気の連鎖

Q. その姿勢や取り組みは、地域や学校全体、教員や生徒に、どのような影響や変化を与えていると思いますか。

A. 変化・影響を与えること自体が簡単なものではないですし、実際には「まだまだできていないな」と常に感じながら、「そこからまた一歩前へ」と進んでいる感じです。一人の力で「このように変化をもたらした!」というものではなく、それぞれのアクションや発言がじわじわと浸透していき、次なる「勇気ある一歩を踏み出す者」を生み出していくイメージでしょうか。

本校では数年前から「Connected School」と銘打ち、学校外との繋がりを重視した取り組みを多数行っていますが、自分が今起こしているアクションがその一つになっていれば理想だと思います。自分自身の行動や発言が、少しでも生徒や先生方が動き出す原動力となっていれば嬉しいです。

Q. 研修後の参加者同士の繋がりやそれに関する取り組みについて、詳しくお聞かせください。

A. 2023年度にカンボジアに渡航した参加者の事後研修にご一緒させていただいたご縁で、エジプト団(2022年度参加者)とカンボジア団(2023年度参加者)との繋ぎ役を務めることになり、交流会を開催しています。どのようなことでも、体験している時をピークとして徐々にその時の感動や思いは薄れていってしまうことが多いので、定期的に渡航者同士が集まって近況報告を行うことで、教師海外研修での経験を思いだし、気持ちを奮い立たせられるといいなと思います

教育行政コースで渡航した皆さんは、各組織で責任ある立場にいて猛烈に忙しい毎日を過ごしている中でJICAの研修に参加した方々です。本当にパワフルで学ぶところも多く、この集団はまさに知の宝庫だと言えます。所属する組織内とは違う刺激を得られますし、何より「明日からまた頑張っていこう!」という元気をもらえる繋がりとなっています。

今後、2024年度の同研修でパプアニューギニアに渡航した皆さんとも繋がることができそうで、8月末には3団合同の交流会が行われる予定です。来年度も再来年度も新しいメンバーが加わることで繋がりが広がっていき、「互いに刺激し合うことで変容し続けるスクールリーダーの集合体」となることを願っています

エジプト団とカンボジア団の交流会の様子

5. 新しい自分に出会うための一歩!

Q.JICA教師海外研修への参加を検討している読者の先生方へ、メッセージをお願いします。

A. JICA教師海外研修は私にとって新たなチャレンジでした。校務と並行しての研修参加やレポート執筆は大変ではありますが、未来へ進む原動力や、刺激を受けられる仲間を得ることができます。少しでも心が動いたなら、行動を起こすのは今しかありません。新しい自分に出会うための一歩を踏み出しましょう!


執筆者

田崎 潤 先生
群馬県立尾瀬高等学校 校長
2023年度JICA教師海外研修(教育行政コース)参加者

1. カンボジアでの経験から学ぶ、子どもたちが
エージェンシーを発揮できる教育

Q. 2023年度の教師海外研修(カンボジア)では、どのような学びや気づきがありましたか。
印象に残っている経験や、そこから得た学びについて教えてください。

A. 「総合的な探究の時間」を中心とする探究的な学びの実践の必要性を強く感じました。日本が支援しているプノンペン教員養成大学を訪問した際、学生たちの「教育の力でさらに国を発展させたい」という気概に感動しました。このような学生が学校現場の中心となる20年後には、知識や技能においても世界で活躍する子どもたちが溢れていることでしょう。

これからの日本の教育は、子どもたちがエージェンシー(変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力)を発揮できる場を提供し、教員のファシリテーターとしての資質を磨くことが大切だと確信しました。

カンボジアでの教師海外研修(教育行政コース)で訪問した教員養成大学での様子

2.生徒主体の海外研修と開発教育の推進

Q. カンボジアでの学びや経験を、スクールリーダー(学校管理職)としてどのような活動に広げ、継続されていますか。現在取り組んでいる活動について教えてください。

A. 研修参加時は群馬県立前橋西高校の教頭でしたが、この春に群馬県立尾瀬高等学校の校長となりました。責任の重さを感じていますが、今はそれよりも取り組みたいことがたくさんあり、ワクワク感の方が勝っています。

今、私が最も力を入れているのは海外研修です。本校は台湾の高校と姉妹校締結をしており、毎年台湾の高校生に本校を訪問していただいています。今年度は本校生徒代表が台湾を訪れ、交流をする予定です。この訪問は、先生が企画したスケジュールに生徒がただ参加するのではなく、台湾文化を学ぶ研修となるように生徒中心に企画してほしいと考えています。パスポート申請やフライトスケジュール、宿泊ホテル選定、研修地選定など、海外研修に必要なあらゆる事柄を、生徒たちが決めます。もちろん、私たち教職員もアドバイスをします。さらに、専門的な部分はJICA群馬デスクにも協力いただく予定です。

また、教職員に対しては、JICA教師海外研修やその他の国際理解教育/開発教育に関わる研修について、積極的に周知しています。今後は私の経験を伝える機会を設定して、その意義と必要性について理解を深めていただきたいと考えています。

3. 尾瀬高校から世界へ!教員と生徒の広がる視野

Q. その取り組みは、地域や学校全体、教員や生徒に、どのような影響や変化を与えていると思いますか。

A. 今年度のJICA教師海外研修(一般コース)※1 に、本校職員が参加することになりました。また、昨年度に私が登壇した「ぐんまグローバルセミナー」に出席した、群馬県の他校の先生も2名一般コースに参加します。私が関わった先生が3名も参加できることは、自分のこと以上に嬉しかったです。私が参加した教育行政コースは、国際理解教育/開発教育をいかに教員に広めるかが使命の1つでしたので、少し役割を果たすことができたと思っています。

また、前任校の報告会では、カンボジアの小学校で活動するJICA海外協力隊の方とオンラインでつなぎ、生徒たちにインタビューをしてもらいました。前任校は国際科が設置されている高校でしたので、JICA海外協力隊に関心のある生徒も多く、将来の道を考えるいい機会となったようです。

現任校でも今年度参加する先生とともに、報告会を行うことを考えています。生徒たちのほとんどが中山間地域に住んでおり、都会の生徒たちと比べて国際理解に対する体験や経験の場が少ないのが現状です。海外研修や報告会を通して、生徒たちの視野を広げたいです。


※1 JICA教師海外研修(一般コース)とは?
JICA国内拠点が主催する、学校教員の方を対象とする教師海外研修。
実際に途上国を訪問し、JICAが実施している事業や教育支援について学び、研修後の授業実践を行うことで開発教育の推進を担う教員の育成を目的としています。
▶︎ 研修概要はこちらから(2024年度教師海外研修(一般コース)の募集は終了しています。)

4. 群馬の学校で広がる異文化理解

Q. 田崎先生が研修後に登壇された「ぐんまグローバルセミナー」では、教師海外研修(一般コース)の参加者や、日本人学校に勤務されていた先生ともご交流されたとお聞きしました。この時に感じたことや得た学び、またそれを踏まえて今後実践したいことがあれば教えてください。

A. 2024年2月17日、Gメッセ群馬にて、JICA教師海外研修の参加教員4名と日本人学校の帰国教員による報告会 「ぐんまグローバルセミナー」が実施されました。私は教育行政コース参加者として登壇させていただきました。一般コース参加者の3名の中に高校籍の方はいませんでしたが、その授業実践はいずれも興味深かったです。

また、授業時間が制約される中で国際理解教育/開発教育を取り入れることの難しさや、管理職の理解不足は共通の課題としてあげられました。その中でも理解を示す管理職のいる学校や、外国につながる児童生徒が多く在籍する学校では実践されているようでした。教師海外研修に参加した管理職の一人として、より積極的、計画的に国際理解教育/開発教育を実践していきたいです。

群馬県では今年度の高校入学者選抜から、外国につながる生徒対象の選抜がはじまり、日本語教育への対応が身近に迫っています。すでに一部の高校では多国籍の生徒が集まり、日本語教育や異文化理解への教育活動が進められています。すべての高校において異文化理解を広げるために、まずは現任校で汎用性の高いプログラム構築を組み立てたいです。

「ぐんまグローバルセミナー」にて帰国報告を行う田崎先生

5. 新たな挑戦で自分自身をバージョンアップ!

Q. JICA教師海外研修への参加を検討している読者の先生方へ、メッセージをお願いします。

A. JICA地球ひろば開発教育メールマガジンは、国際理解教育/開発教育に積極的な人たちが数多く登録しています。まずは身近にいる仲間たちとこのメルマガをシェアしましょう。そして、皆さん自身がアクティブになって、アクティブな子どもたちを育てましょう。尾瀬ヶ原の水が清らかなのは、常に湧き出て、流れ続けているからです。同じところに留まっていると、綺麗な水もよどんできます。ぜひ、皆さんは常に情報をアップデートして、自分自身をバージョンアップし続けましょう!

編集後記

お二人が研修で得た学びが学校や地域、先生や生徒へと伝播していく様子が伝わってきました。いくつになっても挑戦し続けること、今いるところから一歩踏み出してみることは、そう簡単ではありません。しかし、熱意を持って挑戦し続けることで、新たな世界が拓けていくのだと強く感じました。

JICA地球ひろばは今年度も、7月27日〜8月2日の1週間、パプアニューギニアで教師海外研修(教育行政コース)を実施しました。参加した10名の先生たちは現地で何を見て、何を学んだのでしょうか。そんな先生たちの生の声が聞けるオンライン帰国報告会を、9月11日(水)に実施します!みなさんぜひご参加ください。


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