JICAで初めての農業高校生を対象とした高校生国際協力実体験プログラムが、今年8月JICA筑波で開催されました。茨城、栃木、埼玉、三重の5校から集まった16名の高校生が、同じ志を持つ仲間や海外からの稲作研修員※1と共に、農業を通じた国際協力について考えました。プログラムを通して参加者たちは、さまざまな人との出会いや体験から刺激を受け、世界の農業の現状や課題について理解を深めるなど、新たな発見があったようです。今回のコラムでは、プログラム参加者4名の高校生に、プログラムで得た学びや自身の変化などについてお話を伺いました。
※1:JICA筑波では、世界100ヶ国以上から年間800人以上の行政官、 技術者等を研修員として受け入れ、農業や防災、気候変動、教育などのさまざまな分野で研修を行っています。 今回の農業高校生向け高校生国際協力実体験プログラムには、JICA筑波で稲作を学ぶ研修員(稲作研修員)が参加しました。
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▼目次
取材対象者(五十音順)
服部 大輔 さん / 三重県立久居農林高等学校
原 千紗姫 さん / 茨城県立水戸農業高等学校
藤澤 亜朱利 さん / 栃木県立真岡北陵高等学校
村上 陽生 さん / 筑波大学附属坂戸高等学校
1. 国際協力への第一歩 高校生の挑戦
Q. 高校生国際協力実体験プログラムに参加したきっかけを教えてください。
服部大輔さん(以下 服部):元々、多くの外国籍の方が生活している地域に住んでいて、通っていた小中学校でも全校児童・生徒の約4割が外国につながりを持っていました。そんな環境下で過ごしてきたこともあり、自然と外国の文化や生活などに興味を持っていました。そんな時に先生から教えていただいてこのプログラムのことを知り、参加することにしました。
原千紗姫さん(以下 原):それまでJICAについては知らなかったのですが、海外から来た稲作研修員の方と交流ができると聞いて興味が湧きました。初めての経験だったので英語でコミュニケーションが取れるか不安でしたが、稲作研修員の方があたたかく受け入れてくれたので安心してプログラムに臨めました。
藤澤亜朱利さん(以下 藤澤):農業高校に通っている生徒として、他国の農業についても知っておきたいという思いからこのプログラムに参加しました。英語が苦手だったため、うまく話せるか不安もありましたが、一歩踏み出して挑戦してみよう!と思い参加しました。
村上陽生さん(以下 村上):学校で配布されたプリントを見て、このプログラムへの参加を決めました。海外から日本に来た稲作研修員の方と英語で交流できることを楽しみにしていました。
2. 農業を通じた国際協力の可能性
Q. 高校生国際協力実体験プログラムに参加して、印象に残った活動や学びになったことについて教えてください。
服部:農業高校出身の先輩であり、JICA海外協力隊員OBでもある丸山さんの体験談が最も印象に残りました。農業高校出身でも国際交流で活躍する道があることを知れてとても嬉しかったです。自分もいつかJICA海外協力隊に挑戦し、高校で学んだ林業の知識や技術を用いて世界に貢献したいと思いました。稲作研修員の方とのコミュニケーションでは緊張しましたが、先生に教えてもらった英語を使ってなんとか自分の思いを伝えることができ、達成感を感じることができました。
原: 特に印象に残った活動は、稲作研修員の方との交流です。自分の知らない世界のことをたくさん聞くことができて、世界の広さを実感しました。特に、日本とは全く異なる食事や文化、環境について学ぶことができました。また、世界の農業の現状や課題についてもお話してもらい、世界が抱える環境問題など、自分が想像していた以上の問題があると知って衝撃的でした。
藤澤:ランチ交流では、農業分野で国際協力の仕事に関わっている方や、JICA筑波のスタッフの方々からお話を聞く機会がありました。世界各地の農業が抱える課題について教えていただき、さまざまな問題があることを知ることができました。また、農業という専門分野を生かした様々な仕事があることやそのやりがいについて聞くことができ、自分の将来の選択肢が広がったように感じました。
村上:海外で育てている作物や取り組みについて、稲作研修員の方から直接聞いたことがとても印象に残りました。日本とは異なる環境で育てられている農作物について知ることができて、普段の授業では得ることのできない貴重な学びだったと感じています。また、「もしJICA海外協力隊になったら」というワークショップも刺激的で、新たな視点を得る機会となりました。
3. 他人事から「ジブンゴト」へ 〜4人の意識の変化〜
Q. 高校生国際協力実体験プログラムを通して、自身の中でどのような変化がありましたか?
服部:JICA筑波所長の高橋さんが開会の挨拶の際におっしゃった「人類はみんな同じ宇宙船地球号に乗っている」という言葉が心に残っています。プログラムが始まる前はこの言葉が理解できなかったのですが、今は自分の考えも大きく変わりました。私たちは同じ地球に住んでいて、地球上で起きている問題は決して自分に関係ないことではない。世界で起きている問題を他人事として無視するのではなく、それらの問題について知り、向き合うことが大切だとこのプログラムを通して学びました。そのためにも、様々な人の価値観や考えを知り、その人の立場で物事を考える力が重要だと思います。まずはその力を身につけ、いつか自分も国際協力の世界で活躍したいです。
原:稲作研修員の方の話を通じて、世界には多くの人が農業をしながらも生活に困り、苦労している人がいることを知りました。環境問題と密接な関係にある農業では、それらは私たちにも関わってくる問題だと感じました。人と人、国と国が協力し合い、世界全体でこれらの問題を解決していくような未来。そんな未来の実現に向けて、私も将来誰かの役に立つ人になりたいという思いが芽生えました。そのためにも今のうちに学ぶべきことをしっかりと学び、できることから始めていきたいと思います。
藤澤:参加後、高校に戻ってからの授業の受け方が変わりました。農業の授業の時間、「今行っている作業は他国でも役立つのではないか」と考えるようになり、授業に取り組む姿勢もより真剣になりました。例えば、先生の話を図に表しながらノートを取るようになるなど、自分の考えを整理しながら学ぶ意識が高まりました。また、実技の授業にもより積極的に取り組むようになり、今ではESDを生徒主体で行う有志団体の「ESD実践隊」の活動にも参加しています。
村上:このプログラムを通じて、海外の人と関わることの楽しさを感じ、他国の農業についてもっと知りたいと思うようになりました。プログラム中、稲作研修員の方と話す際に農業の専門用語を英語で表現できず、悔しい思いをしたことがきっかけで、英語の勉強にも力が入るようになりました。また、英語だけでなく、いつか訪れてみたい国の言語も学び始めました。
4. 世界を感じる授業づくり 〜高校生の視点から〜
Q.今後、世界のことを知るために、どのような授業を受けてみたいですか?
服部:世界で活躍されているJICA海外協力隊の人の話や、JICAスタッフの人の話を聞きたいです。写真だけでなく、動画やVRなどを使って現地の様子を見ることができたら、より身近に感じられると思います。このプログラム中、実際に海外で活躍された方の話を聞いたことが一番の学びになったので、そういった機会が学校でもあったらいいなと思いました。
原:プログラムに参加したことで、授業では得られなかった新しい知識を身につけ、視野を広げることができました。普段の授業で世界の気候や文化について学んできましたが、その国の環境や地域特性、食文化などを知ることで、地域ごとの農業の問題点やその改善策が見えてくるのではないかと感じました。知識が増えると見える世界が広がるので、今後もさまざまな方法で知識を得たいと思います。また、世界地図を使いながらその地域で起きている問題を考える授業や、外国の遊びやゲームを通して、世界をより身近に感じられる授業を受けてみたいです。
藤澤:さまざまな環境問題が農業に影響を及ぼしているため、世界の環境問題についてとても興味があります。環境問題の影響を受けている国では、その問題を抱えながらどのような農業が実践されているか、詳しく学びたいです。また、国際協力の実体験が書かれた資料や、世界の課題についての教材を使ってみたいです。
村上:プログラム参加を機に、JICA研修員との交流プログラムなどにも積極的に参加するようになりました。いつか一緒に実際の農作業を行い、英語を使いながら農業を体験したいです。一緒に体を動かして農業を行うことで、座学では得られない学びを得られるのではないかと思います。また、農業で世界とつながるという視点から、海外の食物の成長記録を見てみたいです。
★ JICA地球ひろばよりご案内
高校生から提案のあった授業アイデアに活用できるJICAリソースをご紹介します。
◆ 国際協力出前講座
開発途上国に派遣中のJICA海外協力隊やJICAスタッフとZoomなどで接続し、外国の生活や文化、国際協力の仕事など要望に沿って話を聞くことができます。
出前講座はオンライン型・対面型があります。オンライン出前講座は無料です。
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▶︎ 「対面型」出前講座お申し込みはお住まいの各国内拠点から
◆ JICAプロジェクト・ヒストリーシリーズ(JICA緒方研究所)
現場で活躍した人々にスポットをあて、JICA事業の軌跡を物語としてまとめたシリーズです。
国際協力の入門書としてご活用ください。
◆ JICAの農業開発/農村開発事業について
開発途上国の「食」を支える小規模農家の所得を向上させることで農業をビジネスへ発展させます。
◆ 動画教材<YouTube>【開発途上国・農業】SDGs動画シリーズ//ゴール8//働きがいも経済成長も
働きがいって何だろう?途上国の農家の家族は実際にどんなことを感じているのか、国際協力の事例で考えます。
SDGsを理解するための5分間映像。学校の授業でも活用できます。
◆ SHEP (Smallholder Horticulture Empowerment Project)アプローチ
小規模農家の所得向上を促すSHEPアプローチは、現在アフリカ地域で20カ国以上の農村において実践されています。
今では、アフリカのみならず、アジア、中東、中南米にも広がっています。
▶︎ 授業で活用できる教材一覧はこちら
▶︎ <PDF冊子> 現場の声からひもとく 国際協力の心理学
▶︎ SHEPゲームアプリ (日本語でできます) iOS / Android
編集後記
高校生国際協力実体験プログラムを通じて、高校生たちの視野が広がり、世界へと一歩踏み出した生き生きとした様子がうかがえました。また、世界の課題をジブンゴトとして捉え、より良い世界のために当事者として真剣に向き合っている姿が見られ、未来への希望を感じました。
JICA国内拠点では、毎年国際協力に関心のある生徒を対象にした体験型プログラム「高校生国際協力実体験プログラム」を実施しています。 ぜひご参加ください!
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