JICA地球ひろばでは国際理解教育/開発教育に取り組む先生方を対象に、さまざまな研修を実施しています。 今回のコラムでは、増田有貴先生(新潟県阿賀野市立水原中学校)に、JICAの研修での気づきや学びを活かした授業実践、国際理解教育/開発教育推進に向けた取り組みについて伺いました。

▼目次

  1. JICA教員研修への挑戦と学び
  2. SDGsの視点を取り入れたプロジェクトの実践
  3. 新たな視点と仲間とのつながり
  4. 日本国際理解教育学会研究大会シンポジウムのパネリストとして発表!
  5. 新天地での挑戦と意気込み

1. JICA教員研修への挑戦と学び

Q. 増田先生がこれまでに参加したJICA教員研修について教えてください。

A. 最初に参加したJICAの教員研修は、2016年度にJICA東京主催のタイでの教師海外研修(一般コース)でした。当時は採用6年目で、日々の校務をこなすことに精一杯で、なかなか視野を広げられない自身の指導法に自問自答する毎日。そんな時、初任校でお世話になった先輩教員から「あなたにぴったりの研修だからぜひ」と背中を押していただいたのが参加のきっかけでした。
「持続可能性とは?」「当事者意識を育むとは?」などの問いを多様なバックグラウンドをもつ参加者と共に考えながら、1から単元開発をしたのはとても貴重な経験でした。また、ここで学んだ参加型授業の手法やJICAの教材は今でもとても役立っています
(2016年度 JICA東京 教師海外研修報告書はこちら

次に参加したのは、2020年度に開催されたJICA東京の教師国内研修でした。タイでの教師海外研修への参加以降、国際理解教育の実践を自分のフィールドで積み重ねていましたが、「もう一度学び直したい」、「国際理解教育や開発教育に励む仲間たちと出会いたい」と考えるようになりました。そんな折に国内研修の案内があり、すぐに申し込みました。コロナ禍の影響でこれまでの日常が「非日常」となり、答えのない問いに迫られることが多くある中で、研修を通して特に、「レジリエンスを高めること」の重要性を再認識しました。この研修参加者を中心にチームを結成し、2年がかりのカリキュラム開発プロジェクト「総合的な学習(探究)の時間の指導案〜地域の課題・世界規模の課題/SDGs・ESD〜」に携われたことも貴重な経験となりました。
(2020年度 JICA東京 教師国内研修 報告書はこちら

そして昨年、2023年度 JICA地球ひろば 国際理解教育/開発教育指導者研修に参加しました。日本国際理解教育学会の先生方からご指導いただける貴重な機会であること、また、上越教育大学教職大学院2年目というタイミングもあり、教材開発にじっくり向き合うことができると考え、参加を決意しました。学習指導要領を踏まえた国際理解教育や開発教育の授業づくりのポイントなど基礎から学び直すことができ、さらに「授業素材として切り取ることの意味」など自身のこれまでの盲点を認識することができたことは大きな学びでした。また、この研修では「なぜ自分は国際理解教育/開発教育を実践・推進するのか?」「そのために何ができるのか?」など、国際理解教育・開発教育に取り組む自分自身について内省を促す問いが多くありました。自分自身や未来のことを見つめ直し、それが他の参加者との意見交流によりさらに明確になり、エンパワーされたと自覚しています。

2. SDGsの視点を取り入れたプロジェクトの実践

Q. 研修で得た学びを、学校でどのように活かしましたか?

A. 2016年の教師海外研修参加以降、総合的な学習の時間において、SDGsの視点を入れたカリキュラム・マネジメントを行いました。1年次は世界や地域の諸課題を探究し、SDGsとの関連や自分にできる行動をまとめ、他者に伝える。そして3年次は、それぞれが「ありたい未来」を描き、そのために身近な地域で実現できることを企画し、地域の事業者と協働しながら企画を形にする「地域貢献プロジェクト」を行いました。「誰かから与えられた課題」を「やらされる」のではなく、3年間かけて、課題意識や「こうなってほしい」という願いを醸成していくことで、生徒主体の共創的な行動が生まれました。

その他にも、希望者を募って国際理解教育プレゼンテーションコンテストに継続して参加したり、国内外で国際協力に携わる方と生徒をつないだりして、生徒の活動の場を作り続けました。中でも印象に残っているのは、2019年にベナンでJICA海外協力隊員として活動していた高田裕行先生と中学生をつなぎ、ベナンの子どもたちが作ったパーニュサンダルやパーニュ布を活用した貧困解決プロジェクトを実現したことです。中学生のベナンの子どもたちに対する想いと行動が共感を呼び、学校や地域に働きかける壮大なプロジェクトとなりました。

3. 新たな視点と仲間とのつながり

Q. それぞれの研修を経て、自分自身のここが変わった!という点を教えてください。

A. 3つの研修に参加して、ものごとを見る視座・視点が変化したと感じています。国内外をフィールドワークしても、教材づくりや授業づくりの観点から気づくことが増えました。授業では、生徒の思考を促す問いかけを重視し、生徒と共に学びを創るデザインを心がけるようになりました。さらに、生徒が地域や世界とのつながりを考え、課題解決のために自分なりの一歩を踏み出せるような授業や活動を展開してきました。研修で得たさまざまなネットワークを活かし、目の前の生徒と一緒に「どのような未来を共に作りたいか」を考えています。

また、2016年の教師海外研修をきっかけに、新潟県のRING(にいがたNGOネットワーク国際教育研究会)に参加しました。定期的なセミナーを通じて、仲間との学び合いや自身の実践の紹介を行い、学び続ける喜びや仲間とのつながりの大切さを実感しています。

Q.ご自身のステップアップにおいて、それぞれの研修が影響を与えたことがあれば教えてください。

A. 昨年度のJICA地球ひろば 国際理解教育/開発教育指導者研修に参加したことをきっかけに、「2024年度日本国際理解教育学会研究大会シンポジウム」のパネリストにお声がけいただき、心から嬉しく思っています。大学院の学修成果は「教材開発と実践」がメインとなったので、国際理解教育/開発教育指導者研修での経験や知識は大いに役立ちました。特に教材開発については、参加者やアドバイザーの先生方に様々な角度から意味付けをしていただき、大きな自信になりました。

↑「国際理解教育/開発教育指導者研修」の集大成として公開セミナー「地球の未来をともに創るための授業実践」にて代表で事例発表。(右から2番目が増田先生)

5. 新天地での挑戦と意気込み

Q. 研修で得た知識や経験を生かし、今後取り組んでみたいことや挑戦したいことは何ですか?

A. 国際理解教育・開発教育のさらなる推進のためには、他教科との連携やカリキュラム・マネジメントは欠かせないと考えています。他教科の教科書を研究し、カリキュラム・マネジメントの可能性を探っていきたいです。今年度は異動して新しい環境となったので、まずはできる範囲で国際理解教育・開発教育の実践を重ねていき、その成果を周囲に広めていくと共に、自分自身も他の職員から学びたいと思っています。

執筆者

増田 有貴 先生 
新潟県阿賀野市立水原中学校 教諭

参加研修:
2016年度JICA東京 教師海外研修
2020年度JICA東京 教師海外研修 代替国内研修
2023年度JICA地球ひろば 国際理解教育/開発教育指導者研修

編集後記

JICA教員研修を通じて得た視点や知識を、実践にどのように活かしているかを伺うことで、教育現場における国際理解教育・開発教育の可能性を感じました。生徒主体の学びを重視し、地域との連携を図る取り組みは、単なる知識だけでなく、実際の社会課題に自ら取り組む力が育まれるのではないでしょうか。また、教員研修に参加することによってネットワークが広がり、国際理解教育・開発教育の活動の幅も広がっている様子がうかがえました。
今年度もJICA地球ひろばでは、増田先生が参加された「国際理解教育/開発教育指導者研修」の
募集を行っています。ぜひチェックしてみてください!


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