2024年は日本が政府開発援助(ODA)を始めて70年の節目の年。JICAもその大きな役割を担ってきました。今年度の開発教育オンラインセミナーでは「半径3メートルから世界とつながる学びの旅」をテーマに、ODAのプロジェクトの現場で活躍された方々にご登壇いただきました。ゲストの方々にODAプロジェクトでの経験や、そこから得た知見をお話しいただき、身近なところから世界につながるヒントを一緒に探りました。今回はその総集編をお届けします!

▼目次

第1回 「日本のODA」 折田 朋美 氏

開催日:2024年6月26日(水) 19:00〜20:30
講 師:折田 朋美 氏 
    独立行政法人 国際協力機構(JICA) 緒方貞子平和開発研究所 上席研究員
ゲスト:山本 敬典 氏 
    ブエノスアイレス日本人学校 教諭

「知って・考えて・行動する」— 国際協力をジブンゴトに

折田さんは、世界の現状や日本の国際協力の意義について、過去に日本が支援を受けた事例を交えながらお話しされました。具体的には、途上国の安定が日本の安定につながると気付かされる内容や、私たち大人がジブンゴト化する力(=「知って・考えて・行動する」)を身につけ、子どもたちとともに学ぶことの大切さを強調されました。また、「国際協力を日本の文化に。」といった緒方貞子さんの言葉にも触れ、ODAの重要性を改めて認識する機会となりました。

セミナーには、ブエノスアイレス日本人学校教諭の山本敬典さんにも参加いただきました。山本さんからは、修学旅行の事前学習に日系移民の歴史を取り入れるなど、国際理解教育/開発教育の実践を紹介いただきました。「これからも児童生徒とともに、世界の問題についてできることを考えたい。」と、行動し学び続ける山本さんのあり方が、生徒の視点を広げ、考えるきっかけを作り出していることが伝わってきました。

セミナーの最後は、折田さんからの「とにかく自分と違う人がいるということを知ってほしい。そしてそれを楽しんで共感してほしい。答えが見えない世界で皆さんと一緒に考えていきたい。」とポジティブなメッセージで締めくくられました。


<参加者の声>(アンケートより一部抜粋)

・過去70年のODAで得られた世界からの信頼を更に発展させ、平和で発展する日本を継続する必要を感じた。

・今回のセミナーを通じて、私の視野が狭く、国際課題を自分事として捉えきれていなかった部分があったということに改めて気づきました。(中略)なんとなく知識として国際協力について知っているだけではなく、自分ごととして捉え考えるためにも、もっと視野を広げられるように行動していこうと思いました。

 

第2回 「スポーツ」 古川 光明 氏

開催日:2024年7月24日(水) 19:00〜20:30
講 師:古川 光明 氏
    獨協大学経済学部国際環境経済学科 教授
ゲスト:告野 さつき 氏 
    神戸市教育委員会事務局教職員研修所 指導主事

スポーツの可能性と平和構築

古川さんはJICA南スーダンの事務所長として、スポーツを通じた平和構築をどのように行なったのかについてお話しされました。スポーツをODAの枠組みで活用する前例は少なく、関係者の説得や政治的圧力など多くの困難があったそうです。そんな中、実現したスポーツ大会では、南スーダンの若者の真剣な表情や、民族を超えて相手を讃え合う姿が見られ、多くの人々を感動させました。古川さんは、スポーツを通じた開発援助は、民族融和や社会的結束など様々な可能性を秘めた支援であると締め括られ、スポーツの価値を感じる時間となりました。

ゲストティーチャーの神戸市教育委員会の告野さんからは、JICA教師海外研修(教育行政コース)で学んだことをご紹介いただきました。ハード面の支援だけでなく、組織づくりなどソフト面の重要性を、カンボジアでの経験をもとにお話しされました。さらに、神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会で子どもたちが熱心に応援する姿を見て、スポーツは子どもたちの可能性を引き出せると力強く語られました。

日本ではスポーツが身近に存在しているため、自分が体を動かすことはもちろん、選手の応援を通じて子どもたちが学べることは多いのだと実感する機会となりました。

◆ 講師の古川さんのプロジェクト・ヒストリーはこちら
「スポーツを通じた平和と結束ー南スーダン独立後初の全国スポーツ大会とオリンピック参加の記録」


<参加者の声>(アンケートより一部抜粋)

・スポーツは教育になくてはならないものであると、改めて感じました。スポーツも平和に大きく貢献していきます。教育の目的は人間が幸せに生きられること、平和な世界をつくることだと思うので。

・古川さんのお話を聞いて感動しました。スポーツを通してお互いを理解し合うことが平和につながるのだと学ぶことができました。やはりお互いを知るということが大切ですね。

 

第3回 「農業」 浅井 誠 氏

開催日:2024年9月25日(水) 19:00〜20:30
講 師:浅井 誠 氏
    独立行政法人 国際協力機構(JICA) タンザニア事務所 次長
ゲスト:池田 拓 氏
    茨城県立水戸農業高等学校 教諭

農業がつなぐ世界と未来

長年にわたり、稲作支援プロジェクトの専門家としてタンザニアの変化を見てきた浅井さんは、現地での活動の歴史と現地にもたらした影響についてお話しされました。タンザニアが近隣諸国やアジアに米を輸出できるようになった背景には、日本の開発協力が大きく関与しているそうです。現地の水田の写真を交えながら、日本の支援がもたらした変化を具体的に紹介していただきました。また、食料安全保障の観点からも、農業はさまざまな形で生活に関わる重要な分野であると、力強いメッセージがありました。

ゲストティーチャーの水戸農業高校教諭の池田さんからは、海外の方と協力してダイズを栽培し、水戸納豆を世界に発信するプロジェクトや、JICA筑波の研修員との交流活動について紹介していただきました。生徒たちが日本以外の人々との交流を通じて視野を広げ、前向きな姿勢を示したことが生徒へのアンケート結果からも明らかになり、開発教育の実践例として参考となるお話でした。

農業は私たちの食生活と密接に関わる分野であり、世界中の人が関連するテーマです。学校現場でも世界を身近に感じる重要な切り口の一つになるのではないでしょうか。

◆ 講師の浅井さんのプロジェクト・ヒストリーはこちら
「稲穂の波の向こうにキリマンジャロータンザニアのコメづくり半世紀の軌跡」


<参加者の声>(アンケートより一部抜粋)

•あまり農業の経験や特別な知識がなくても、現地の方々の生活がより良いものとなるために、工夫をして活動されているお話を聞き、自分のやり方次第でいくらでも可能性を広げることが出来るのだと、勇気をもらいました。

・「豊かな体験が豊かな人生につながる」「教室はそもそも失敗していいところだから」などパワーを感じる言葉を聞くことができた。

 

第4回 「インフラ整備」 阿部 玲子 氏

開催日:2024年10月23日(水) 19:00〜20:30
講 師:阿部 玲子 氏
    ㈱オリエンタルコンサルタンツグローバル 執行役員 /
    オリエンタルコンサルタンツ・現地法人 取締役会長
ゲスト:山田 翔一郎 氏
    埼玉県立小川高等学校 教諭

インドでの挑戦―メトロ整備と学校間交流

阿部さんはインドのメトロプロジェクトを例に、土木コンサルタントとしての役割や発展途上国での安全管理の向上に取り組んだ経験についてお話しされました。20年かけて地下鉄の整備を行い、1日約70万台の通行車両の減少や、年間100万トンの有機ガス削減を実現したそうです。これらの成果は、コンサルタントとして、工期を守るための効率性を重視しながら、同時にヘルメットや安全チョッキの着用などの安全意識の向上も図るなど、一つ一つの積み重ねであることが伝わってきました。

ゲストティーチャーとして参加いただいた埼玉県立小川高等学校教諭の山田さんは「知識を知恵に変える」をモットーに、インドとの学校間交流について紹介されました。インドとのオンライン交流会を実施したほか、8名の生徒と共にインドを実際に訪れたそうです。最初は不安そうだった生徒たちも、演劇やダンス、調理実習を通じてインドの生徒と親交を深め、最終日には「別れるのが辛い」という声があがるほどの変化があったそうです。まさに「体験する」ことの価値をお話しいただきました。

阿部さんがメトロプロジェクトで築いた安全や環境への配慮、山田さんが生徒と経験した異文化交流。どちらも、人と人がつながる価値を示していました。情熱や思いを持って伝えることで、国や年齢を超えて人はつながるのだと実感した貴重な時間でした。

◆ 講師の阿部さんのプロジェクト・ヒストリーはこちら
「マダム、これが俺たちのメトロだ! インドで地下鉄整備に挑む女性土木技術者の奮闘記」


<参加者の声>(アンケートより一部抜粋)

・インドの国民性やインフラ事情など、最新の臨場感のあるお話が聞けて大変面白かったです。今までインド人の方と接点がほとんどなかったですが、交流してみたいと思うようになりました。

・インドという国を題材に、日本と違う文化との交流法を含めた学校を媒介した国際交流のイメージを新たに持つことができたように思えた。

 

第5回 「環境」 髙倉 弘二 氏

開催日:2024年11月20日(水) 19:00〜20:30
講 師:髙倉 弘二 氏  
    髙倉環境研究所 代表
ゲスト:藤井 美奈子 氏
    長野市立大岡中学校 教諭

「知識は実行してこそ価値がある」

髙倉さんはインドネシア・スラバヤ市で「髙倉式コンポスト」を確立し、環境改善に尽力した経験についてお話しされました。セミナー冒頭で見せていただいたプラスチックごみが川を覆っている写真や、開発途上国の廃棄物管理の様子は衝撃的なものでした。そんな中で髙倉さんは「驚き・感動・笑顔」を大切にしながら現地の人たちとのコミュニケーションを重ね、100以上の国で技術指導を行い、それぞれの国で髙倉式コンポストが普及していきました。また、日本国内でも環境学習のゲスト講師や企業の専門家として活動をしており、その基盤は日々知識を得ては実行するというPDCAサイクルを回してきた人生経験にあると語られました。

ゲストティーチャーの長野市立大岡中学校教諭の藤井美奈子さんは、2023年度JICA教師海外研修でザンビアを訪問。その経験をもとに行った、世界で起きている問題を多角的に捉えることで、世界の中の「私」を意識させる道徳の授業について紹介いただきました。授業をつくる際には、知識を詰め込むのではなく、生徒の考えをどう変容させるかを常に意識することが重要であると強調しました。

お二人の話は、知識を得るだけでなく、行動し、考え続けることの大切さを再認識する機会となりました。

◆ 講師の髙倉さんのプロジェクト・ヒストリーはこちら
「高倉式コンポストとJICAの国際協力 スラバヤから始まった高倉式コンポストの歩み」


<参加者の声>(アンケートより一部抜粋)

・国際協力の活動の中で、開発途上国の方に知識や技術を伝えるのは、相手との合意形成が前提になることを再認識できました。独りよがりになるのではなく、対話を重ねながら、あなたがそう言うならやってみるよ、という信頼関係を築くからこそ、相手に受け入れられるものになると気づかされました。

・「知識は行動することで意味がある。」との言葉を聞いて、一歩を踏み出さなければと、あらためて思った。

 

第6回 「教育」 大橋 知穂 氏

開催日:2024年12月18日(水) 19:00〜20:30
講 師:大橋 知穂 氏
    独立行政法人 国際協力機構(JICA)オルタナティブ教育推進プロジェクト2
    チーフアドバイザー
ゲスト:上原 修一 氏
    新潟市立総合教育センター 指導主事

「それでも諦めない」教育は未来へのパスポート

大橋さんは、パキスタンで学習機会を逃した人々のためのノンフォーマル教育制度の構築に取り組んでいます。パキスタンの現状や、未来の子どもたちのために大人は何ができるかなど、ご自身の経験をもとにお話しされました。パキスタンでは不就学児童・若者が2500万人以上おり、教育を受ける機会が極めて限られています。そこで大橋さんは、場所や時間を問わず学べる仕組みを政策レベルで普及させました。もちろん普及は一筋縄ではいきませんが、変化を信じて諦めず活動し続ける姿勢が印象的でした。

ゲストティーチャーの新潟市立総合教育センター指導主事の上原修一さんからは、教育センターでの教員研修やJICA教師海外研修(教育行政コース)に参加した経験と、これからの国際理解教育についてご紹介いただきました。学校現場で国際理解教育が進みにくい理由として、教科としての位置付けがないことや外部とのつながり方が不明確である点を挙げました。そこで、新潟市の教員向けに研修を立ち上げ、地域の国際交流機関や実践者と連携して学びを深める機会を提供しているそうです。

今年度の開発教育オンラインセミナー最終回は、「教育」とは?という本質についてあらためて考える、多くの視点やヒントが得られる回となりました。「教育」について一人一人が考え、行動し続けることが、私たちが未来の子どもたちのためにできることなのではないでしょうか。

◆ 講師の大橋さんのプロジェクト・ヒストリーはこちら
「未来を拓く学び「いつでも どこでも 誰でも」—パキスタン・ノンフォーマル教育、0(ゼロ)からの出発」


<参加者の声>(アンケートより一部抜粋)

・「誰も取り残さない教育」の重要性は理解しています。ただ、教育現場にいると日々の激務で忙殺されて「個別最適」など美しい理念はいつの間にか教室の片隅に追いやられていく悲しさを感じます。しかし、今日大橋さんが仰っていた「それでも信じる。それでもあきらめない」という言葉に大変勇気をいただきました。

・国境を越えて教育の重要性を認識することができた。生きるため、世界をつくるために教育は必須だと改めて感じた。

 

★JICAプロジェクト・ヒストリーシリーズのご紹介

「国際協力の現場の様子を知りたい」、「どのような人が活躍しているのか知りたい」、「日本と世界の国々の協力の歴史を知りたい」、「これまで日本が実施してきた国際協力事業のうち、何が成功し、何が教訓だったのか知りたい」…プロジェクト・ヒストリーは、国際協力にご関心のある皆様におすすめの書籍シリーズです。

国際協力の入門書として、ぜひご活用ください。

編集後記

地球が抱える問題をジブンゴトとして捉え、行動する。「半径3メートルから世界とつながる学びの旅」を通して、そのための一歩を踏み出す勇気をもらえたように感じます。読者の皆さんが開発教育について考え、行動するきっかけのひとつとなれば嬉しいです。これからも、一人一人の小さな一歩を積み重ね、共により良い世界を築いていきましょう!


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