2025年度の「JICA世界とつながる教育オンラインセミナー」では、「新しい時代を生き抜くための6つのチカラ」をキーワードに、開発途上国におけるJICAプロジェクトの現場で活躍された方々をゲストに迎え、それぞれの経験やストーリーをお話しいただきました。教育現場はもちろん、人と人とのつながりがより一層大切になるこれからの時代を生き抜くチカラについて、共に探究してきました。本コラムでは、全6回にわたる内容を振り返る総集編として、そのエッセンスをお届けします!


▼目次

開催日:2025年6月25日(水) 19:00〜20:30
講 師:西山 直樹 氏
    特定非営利活動法人ハート・オブ・ゴールド理事/事務局長
ゲスト:吉田 圭佑 氏
    北海道札幌南陵高等学校 教諭

共に創る学びのカタチ

第1回は「伝えるチカラ」をテーマに、特定非営利活動法人ハート・オブ・ゴールド理事/事務局長の西山直樹さんを迎え、カンボジアで展開する体育科教育支援事業について紹介がありました。従来、単調な「クメール体操」が中心だった体育授業に対し、同団体は教育省と協働し、学習指導要領の作成から器械体操や球技など多様な種目を学べる学校を増やしていきました。知識や技能に加え、態度や協調性を育む『新しい体育』の形が、少しずつ現場に根づいていったといいます。西山さんは、「全国に普及するにはまだ時間がかかるが、カンボジアの人々自身が『新しい体育』を広げたいと思うことで、時間をかけて確実に広がっていく。最終的な目標は、自分たちがいなくなること。」と話しました。

また、ゲストティーチャーとして北海道札幌南陵高等学校の保健体育教諭の吉田さんが登壇しました。グローカルな視点を学ぶために参加したJICA地球ひろば主催の『国際理解教育/開発教育指導者研修』での経験を踏まえ、「答えを教えるのではなく、ともに考える姿勢」で生徒と向き合う大切さを実践例とともに紹介しました。

対談ではアウトプットの大切さが話題となり、子どもたちや先生の声に耳を傾けることが、成長や自信を育むという考えが示されました。最後は、教育は社会の変化に合わせて変わり続ける必要があると締めくくられました。

◆ 講師の西山さんのプロジェクト・ヒストリーはこちら
「未来ある子どもたちに「新しい体育」を―体育がつなげた仲間たちのカンボジア体育の変革」


<参加者の声>(アンケートより一部抜粋)
・教育の力が子どもの未来に多大な影響を与えること実感し、希望を持てる未来を想像することができました。

・最後のお話であった、「教育は終わりのない向上、社会が変われば求められることも変わる」という言葉が残っています。…授業においても、すぐに正解を教えるのではなく、こどもたちと一緒に考えること、明日から実践していこうと思います。

開催日:2025年9月24日(水) 19:00〜20:30
講 師:小西 伸幸 氏
    笹川平和財団 アジア・イスラム事業ユニット 第1グループ グループ長
ゲスト:石橋 佳奈 氏 
    福山市立山手小学校 教諭

人と人をつなぐ信じる力

第2回は「信じるチカラ」をテーマに、笹川平和財団アジア・イスラム事業ユニット第1グループ グループ長の小西伸幸さんを迎え、ASEAN工学系高等教育ネットワーク(SEED-Net)の立ち上げに携わった経験についてお話しいただきました。SEED-Netを通じて、東南アジアの教員が留学後に母国へ戻り、次の世代を再びネットワークへ送り出すという好循環が生まれていることが紹介されました。一方で、異なる国や立場の人々と協働する中では多くの苦労もあったと振り返ります。そうした経験を経て、共通の目標に向かい共に考え、成果を出したときに感じるやりがいこそが、「信じるチカラ」の源になったと語られました。また、開発協力の根本は人と人との触れ合いであり、楽しいと思える関係性が信じる力を育むと締めくくられました。

ゲストティーチャーとして登壇した福山市立山手小学校教諭の石橋さんは、タイや韓国の学校との交流実践を紹介しました。「信じるチカラ」は、相手への関心や尊重、素直な姿勢の積み重ねの上に成り立ち、子どもだけでなく教員自身にも必要だと力強く語りました。

最後はお二人から視聴者に向けて、信頼関係を築くためには相手をリスペクトする姿勢が欠かせないこと、そして異なる価値観に触れたときに生まれる違和感を、前向きに受け止めていくことの大切さが語られました。

◆ 講師の小西さんのプロジェクト・ヒストリーはこちら
『SEED-Netが紡ぐアセアンと日本の連帯―学術ネットワークが織りなす工学系高等教育の基盤』


<参加者の声>(アンケートより一部抜粋)
・「0」→「1」を作ることは大変だけれど、やってみようという気持ちになれたこと、様々な形で少しずつ交流をして、信頼関係を築いていくことが大切だと改めて感じました。

・教育に限らず人のつながり、信じる力の重要性を知ることができました。「目の前のことには意味がある」という言葉に強く共感し、信じる力を養う上で大切にしていこうと思います。

第3回 考えるチカラ 〜中米で子ども達の考える力を養うための挑戦〜

開催日:2025年10月22日(水) 19:00〜20:30
講 師:西方 憲広 氏 
    JICA国際協力専門員(教育)兼エルサルバドル教育省教育政策アドバイザー/広域協力
ゲスト:三浦 学 氏
    学校法人 宇都宮海星学園 星の杜中学校・高等学校 探究課リーダー

子ども主体の学びのつくり方

第3回は「考えるチカラ」をテーマに、JICA国際協力専門員(教育)兼エルサルバドル教育省教育政策アドバイザー/広域協力の西方憲広さんにご登壇いただきました。西方さんは、エルサルバドルにおける算数・数学分野の学力向上支援の経験をもとに、学力や教員の理解度の現状を踏まえ、日本の学習過程をそのまま導入するのではなく、子どもたちの「自ら考えるチカラ」を育てる学習過程をどのように構築してきたかを紹介しました。教育省と協力し、「教える」のではなく「支援する」学習体系のもと、適切な教材を用いて成功体験を積み重ねることで学習意欲を高めてきた西方さん。その経験から、児童・生徒だけでなく教員にとっても「わかった」「できた」という実感が重要であると語られました。また、学力向上の効果が継続的に積み上がり、教科書配布制度にもつながったそうです。

ゲストティーチャーとして登壇された星の杜中学校・高等学校の地理歴史、公民科教諭の三浦さんは、子どもたちの「問い」を起点とした授業実践を紹介しました。知識の暗記ではなく、子ども自身の問いを軸に学びを支援することで、主体性や自信が育ち、視野や進路選択の幅が広がっていくと語りました。

最後に、教育の面白さや行動することの大切さが、視聴者へ向けたメッセージとして共有されました。子どもたちを思う人たちと共に、小さなことから取り組んでいきたいという思いで締めくくられました。

◆ 講師の西方さんのプロジェクト・ヒストリーはこちら
『中米の子どもたちに算数・数学の学力向上を 教科書開発を通じた国際協力30年の軌跡』


<参加者の声>(アンケートより一部抜粋)
・やり方をほんの少し変えるだけで大きな変化となるーその「自己の柔軟性」が大切だと感じました。「主体的に取組む力」を育てるための様々な取り組みをお二人から学びました。

・子どもたちを成長させるためには「問い」が必要なこと、またその問いは教師から与えるものではなく子どもたちから引き出すものという点に共感しました。

開催日:2025年11月26日(水) 19:00〜20:30
講 師:岡野 貴誠 氏 
    国際協力機構(JICA)人間開発部 国際協力専門員
ゲスト:石動 徳子 氏 
    神戸市教育委員会事務局 学びの推進課 こども日本語サポートセンター 指導主事

学びを支える組織のあり方

第4回は「つくるチカラ」をテーマに、JICA人間開発部の岡野貴誠さんが登壇され、エジプト・日本科学技術大学(E-JUST)の設立と発展に携わった経験についてご紹介いただきました。エジプトと日本の間で調整役を担う中で、大学設立をめぐり、期待と現実の間に大きな乖離が生じ、日本側の立場や役割の認識をめぐって、双方の間に不信感が生まれたことが語られました。アラブの春による社会的混乱も重なる中、部署横断型のタスクチームを結成し、人材育成戦略や留学生受入、工学部設立などの取り組みを進め、E-JUSTはアフリカを代表する総合大学へと成長しました。岡野さんはこうした経験を通して、組織をつくるためにはコミュニティの一員として教員や職員、外部の人も含めて一緒に取り組むことが大事であると伝えらました。

また、神戸市教育委員会事務局の石動さんがゲストティーチャーとして登壇され、JICA教師海外研修(教育行政コース)でエジプトの学校を訪れ、日本の特別活動の価値を見つめ直した経験についてお話しされました。また、誰もが学びやすい授業・学習環境を目指すことと、一人ひとりが持つ力を活かし、伸ばしていく視点が重要であると示されました。

最後は、国際協力を特別なものと捉えるのではなく、人と人との関係を丁寧につくっていくことの大切さや、JICAの多様な事業を知り、学びを世界へと広げて欲しいと締めくくられました。

◆ 講師の岡野さんのプロジェクト・ヒストリーはこちら
『科学技術大学をエジプトに―砂漠の地で始まる大学造り、紡がれる人々の「物語」』


<参加者の声>(アンケートより一部抜粋)
・日本側/エジプト側で語るのではなく、「私たち」として関わることー自分にもそうできていたら本当に良かったのになぁという、うまくいかなかった失敗経験があるので、改めてその重要さを認識しました。

・外国につながる子どもの学習では、言葉を覚えさせることが先にきてしまい、一人ひとりの個性をしっかり見るということを疎かにしがちになるかもしれません。…言語習得や受験など目的ばかりにならず、その過程でも個々の能力を生かし、安心して学習に取り組める環境を整える意識を大切にしたいと思いました。

第5回 つながるチカラ ~人と人のつながりから始まる東ティモールの国づくり〜

開催日:2025年12月17日(水) 19:00〜20:30
講 師:風間 秀彦 氏 
    元埼玉大学教授・客員教授
    元東ティモール国立大学客員教授
ゲスト:井本 亜希 氏 
    Asian Hope Lab.主宰

信頼でつながる学び

第5回は「つながるチカラ」をテーマに、元埼玉大学教授・客員教授/元東ティモール国立大学客員教授の風間秀彦さんがご登壇されました。東ティモール唯一の国立大学である同大学工学部の教育能力向上に関わる中で直面した困難と、それを乗り越えてきた経験についてお話しいただきました。東ティモールの歴史や国の成り立ち、大学を取り巻く社会的背景を踏まえ、教育制度や運営体制が十分に整っていない状況の中で、現地の教員や関係者と向き合い続けてきた歩みが語られました。こうした困難を一つひとつ乗り越え、愛情を持って現地の人々と接することで工学部の運営能力向上を実現してきた経験から、風間さんは「つながるチカラ」のポイントを「相互理解と信頼関係の構築」とまとめ、相手の背景や実情に寄り添い、同じ目線で対話を重ねていくことが大切と示されました。

また、ゲストティーチャーのAsian Hope Lab.主宰の井本さんからは、日頃の活動で大切にしている「経験」「関心」「場」という三つのつながりが紹介され、自分も共に成長していく「共育」の姿勢についてお話しいただきました。

お二人の対談では、活動の原動力について問いかけがあり、風間さんは「現地の人々への愛着や、共に歩む姿勢こそが継続の原動力」と語られました。最後に、人と直接出会い関係を育むこと、そして海外に出て視野を広げることの大切さが、視聴者へのメッセージとして届けられました。

◆ 講師の風間さんのプロジェクト・ヒストリーはこちら
『苦難を乗り越えて、 国づくり・人づくり―東ティモール大学工学部の挑戦』


<参加者の声>(アンケートより一部抜粋)
・開発途上国の現地の様子は、誰からどんな立場で聞くかが重要で、感動の押し付けではない等身大のお話を聞いて理解することが本当に大切だと思いました。

・自分の経験を自分の中だけで終わらせず、誰かに渡すことでその誰かの考え方や生き方に影響が与えられるかもしれない可能性を感じることができました。自分自身いろんな経験をしてみたいという気持ちはありますが、今までは自分のためだったということに気づきました。今日からは自分の経験が誰かにつながるという気持ちを持って行動できたらいいなと思います。

開催日:2026年1月21日(水) 19:00〜20:30
講 師:原 雅裕 氏 
    アスカ・ワールド・コンサルタント株式会社 シニアコンサルタント
    元国際協力機構(JICA)客員国際協力専門員
ゲスト:稲田 恒久 氏
    豊橋市立磯辺小学校校長
    豊橋市小中学校英語企画委員会委員長
    令和10年度版小学校教科用図書「英語」編集委員

みんなが主役の学校づくり

最終回となる第6回は「巻き込むチカラ」をテーマに、アスカ・ワールド・コンサルタント株式会社シニアコンサルタント/元JICA客員国際協力専門員の原雅裕さんが登壇されました。原さんからは、「みんなの学校」プロジェクトに関わる中で、地域住民を学校運営にどのように巻き込み、持続可能な仕組みを築いてきたのかが語られました。同プロジェクトは、2004年にニジェールで始まり、現在はアフリカを中心に11カ国へと展開しています。原さんは、学校と学校運営委員会の間にある心理的距離や、リーダー選出の課題に直面し、民主選挙の導入や住民総会の立ち上げに取り組んできました。教育の権限を地域に委ね、住民自身が学校づくりに関わるプロセスを大切にしてきた結果、学校がコミュニティに根づき、安全な学校づくりや学力向上につながっていったことが共有されました。

また、ゲストティーチャーとして豊橋市立磯辺小学校校長の稲田さんが登壇し、コミュニティ・スクールとして地域と連携した学校運営の実践について共有されました。地域の良さを継承・発信し続けることを大切にしながら、出前講座や体験的な学びを通じて、学校と地域の関係を積み重ねていることが語られました。

最後に、世界とのつながりの中で自分自身の考えや気づきが広がっていくこと、そして「みんなの学校」を見て、知り、学び続けてほしいというメッセージが、視聴者に向けて届けられました。

◆ 講師の原さんのプロジェクト・ヒストリーはこちら
『西アフリカの教育を変えた日本発の技術協力―ニジェールで花開いた「みんなの学校プロジェクト」の歩み』


<参加者の声>(アンケートより一部抜粋)
・住民を「巻き込む」といっても、何か特別な技術に頼る必要はなく、国や民族を超えて人間と人間の「信頼」を丁寧に築いた結果が、人々の主体性を引き出し、学校・教育・学力改善という大きなうねりに巻き込むのだと感じました。

・学校教育とコミュニティづくりは一体となって進んでいることを実感しました。

「国際協力の現場の様子を知りたい」、「どのような人が活躍しているのか知りたい」、「日本と世界の国々の協力の歴史を知りたい」、「これまで日本が実施してきた国際協力事業のうち、何が成功し、何が教訓だったのか知りたい」…プロジェクト・ヒストリーは、国際協力にご関心のある皆様におすすめの書籍シリーズです。現在、42冊が発刊されています。
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JICAプロジェクトヒストリーはマンガ版もあり、現在、10冊が発刊されています。国際協力の現場をより身近に、わかりやすくまとめておりますので、こちらもぜひご活用ください。無料でダウンロードできます。

今年度の総括

今年度は「JICAプロジェクト・ヒストリー」の著者より、教育分野で活躍された方を講師に迎えてセミナーを実施しました。教員の方だけでなく、民間企業の方、大学生から中学生まで幅広い世代から、全6回で延べ668人の方にご参加をいただき、教育というテーマの関心の高さを改めて実感しました。同時に、単なる情報収集にとどまらず、JICA海外協力隊への挑戦や講師と同じプロジェクトへの参加など、自らの次の行動を見据えて視聴される方が多かったことが印象的でした。

各回で講師が共通して語っていたのは、「自ら行動し、世界を知ることの大切さ」です。さらに、ゲストティーチャーから共有された学校現場や地域に根ざした実践を聞くことで、講師の語る経験をより身近に感じ、学びをさらに深めるものとなりました。本セミナーが、皆さんの新たな一歩につながる機会となっていれば嬉しく思います。

編集後記

全6回にわたってお届けしてきた今年度のオンラインセミナーを振り返ると、どの回で語られた「チカラ」にも共通していたのは、「人」の存在でした。人が持つ力や思いは、どの時代、どの場所においても変わらず大切な軸ではないでしょうか。誰かと向き合い、信頼を築きながら共に考え、行動していくこと。その一つひとつの積み重ねこそが、学びや社会を動かす鍵なのだと感じました。来年度のJICAオンラインセミナーも、どうぞお楽しみに!


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