外国人旅行者の増加や、外国につながる児童・生徒が教育現場でも増える中、「違い」と向き合う場面は日常の中で広がっています。海外での経験を通して「違って当たり前」という感覚を育んできた赤羽先生は、JICA海外協力隊でのブラジル派遣を経て、帰国後にJICA地球ひろば主催の国際理解教育/開発教育指導者研修に参加し、開発教育の実践をスタートしました。今回は、その経験と授業づくりへの想いをうかがいました。

▼目次

Q. ブラジルでのJICA海外協力隊の経験で、特に印象に残っていることは何ですか?

一番印象に残っているのは、第一アリアンサ村*開拓100周年記念の盆踊りです。
派遣先の第一アリアンサ村は、長野県の移民が入植した日系の村でした。赴任してわずか2週間後に最初の盆踊りに参加したのですが、それが入植99周年を祝う盆踊りでした。そこで村の人たちが翌年の100周年の記念の盆踊りをどう盛り上げようかと語り合っているのを目の当たりにしました。私もその声に応えたくなり、クラウドファンディングで資金を集め、法被を新調したり、盆踊り当日に花火を打ち上げたりしました。私の地元・松本市で毎年8月に開催され、約2〜3万人が参加する県下最大級の夏祭りの踊り「松本ぼんぼん」を、第一アリアンサ村の高校生たちと一緒に大々的に披露しました。私自身、この盆踊りを松本で踊ったことはありましたが、大きなヤグラの周りを大勢で回る、これぞ本物!と感じる盆踊りを、ブラジルで初めて経験しました。協力隊活動の集大成となった100周年の盆踊りは、今も鮮やかに記憶に残っています。

赴任直後に開催された盆踊りにて

第一アリアンサ村で暮らしてみてまず感じたのは「日本以上に日本」という驚きでした。盆踊りをはじめとする日本文化にまつわる行事が色濃く残っており、人々が日系人としての誇りを持って生活していることを感じました。一方で、大きなイベントでも、開始時間や進行が遅れることが当たり前であったり、ハグや率直なコミュニケーションに象徴されるブラジルのオープンな文化が混ざり合っていたりと、日本とは異なる面もありました。しかし、その中にも根底には日本的な空気が流れており、その濃さを日々強く感じていました。ちょうど私が派遣されていた頃は、日系3世、4世の方たちが中心となって、日系以外の人も日本語学校に通えるようにしようとしている過渡期でもありました。伝統と新しい文化が交差していく変化の瞬間を、間近で見ることができました


*第一アリアンサ村は、ブラジル・サンパウロ州の州都であるサンパウロ市から北西に600km、バスで約8時間離れた田舎に位置しています。もともとは日本人が開拓した第一アリアンサ村ですが、人口は約1000人で、そのうち約200人が日系人です(2024年)。主な産業は果樹や野菜などの農業・牧畜・養鶏を中心に生活をしています。

2.  “違って当たり前”が育った原体験

Q. 現地で生活する中で感じた「文化の違い」はどんなものでしたか?また、それは授業づくりにどうつながっていますか?

ブラジルでも文化の違いは感じましたが、実はそれ以上に文化の違いを強烈に経験したのは、大学院時代の海外訪問でした。大学院の教授の勧めで参加した国際学会でインドネシアの大学の先生と出会い、現地を訪問する機会がありました。残念ながら地震の影響で学校訪問は叶いませんでしたが、同じアジアなのに宗教も食事も服装もまったく違う現地の様子に触れることができました。また、ニュージーランドやデンマークの学校を視察した際には、床の上で寝転がって学ぶ子どもたちの姿に衝撃を受けました。そのときに、日本の教育では、いかに「みんな同じ」に揃えているのだと感じ、それは世界的に見るととても珍しいことなのではないかと気づいたのです。

大学院時代の海外訪問の経験があったので、ブラジルでも「違って当たり前」という気持ちで、色々なことに向き合えました。だからこそ逆に、距離的にはずっと遠いのに、日本よりも日本らしい文化が残っていたり、「日本と同じ」と感じることにもすごく興味が湧いてきて、違いと共通点の両方が見えてきました。

配属先の第一アリアンサ日本語学校での活動の様子

そうした経験を通して、日本で「普通」だと思っていた価値観は、世界の中では一つの選択肢に過ぎないのだと実感しました。また、違いを「正す」のではなく、まず理解しようとする姿勢が大切だと感じるようになりました。だからこそ、教員として生徒たちにも「違いに出会ったときに、拒絶ではなく理解しようとする視点」を持ってほしいと考えるようになりました。その思いが授業づくりにもつながり、自作の「ちがいのちがい」カードを活用した授業を考えました。

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3. 『ちがいのちがい』が生まれるまで

Q. その授業が生まれたきっかけについて教えてください。

私は現職参加制度を利用してJICA海外協力隊に参加したので、帰国後も長野県の中学校教員として教壇に戻ることができました。ただ、せっかく経験を持ち帰ったのに、どう授業に生かせばいいかがわからない状態が続いていました。そんな中で参加したのが、JICA地球ひろば主催の国際理解教育/開発教育指導者研修です。

研修では、日本国際理解教育学会のアドバイザーの先生方から、国際理解教育の知識や授業の作り方、進め方などをインプットしていただきました。そしてそれと同じくらい自分にとって意味が大きかったのが、全国から集まった志の高い先生たちと出会えたことです。一緒に話し合い、悩みながら授業作りを進める中で、自分も頑張ろうというモチベーションが維持できました。

JICA国際理解教育/開発教育指導者研修 前半研修にて

全国各地、様々な環境の中で国際理解教育/開発教育に取り組む先生方との話す中で、学校の風土や特徴、学年のカラーなど、置かれている環境によってどんな授業実践ができるか左右されることを痛感しました。しかし、集まった先生方は異なる背景を持っていてもみんな同じ志を持っていて、それを出発点に、それぞれの環境に合わせて国際理解教育/開発教育を進めていくことが大切だと感じました。

それぞれの実践について発表し、フィードバックを受ける後半研修

自分は授業を通して生徒たちに何を伝えたいか、どんな授業を行いたいか、じっくりと向き合い、ブラジルでの経験とも重ね合わせ、「ちがいのちがい」というテーマが浮かび上がってきました。国際理解教育/開発教育指導者研修に参加しなかったら、この授業は生まれませんでした。知識とモチベーション、その両方をいただけたことがとても大きかったです。

Q.  授業で、生徒に一番考えてほしかったこと、伝えたかったことは何ですか?

生徒たちには、違いに出会ったときに「まず知ろうとする姿勢」を持ってほしいという思いがありました。私が教えている学校は、長野県の一般的な地方校で、海外との交流はほとんどありません。そういった環境にいる子どもたちだからこそ、「海外」だけでなく「自分と違うもの」に目を向ける視点や枠組みを持ってほしいと思っていました。

松本市は近年外国人旅行者が増えていますし、日本全体を見ても日本で暮らす外国人の方は増えています。外国人の方とコミュニケーションの機会は必ずやってきます。また、例え日本人だけのコミュニティにいたとしても、この先、大人になれば必ず考え方の違う人と一緒にやっていかなければならない場面が来るはずです。この授業を通して、自分と違う人を受け入れるきっかけにしてほしいという思いで、この授業を行いました。

5.  『自分の当たり前は、当たり前じゃない』に気づく瞬間

Q. 授業の中で工夫したことや、生徒の反応で印象的だったことを教えてください

異なる文化的背景を持つ人たちと共に生活していくうえで大切なことを考えることをねらいとして、「あってはいけないちがい」と「あっていいちがい」、そして「どちらともいえないちがい」を分類するグループ活動を行いました。在留カードやハラルなど、生徒にはなじみが薄い概念も含まれるので、パワーポイントで1枚ずつ提示しながら言葉の意味を確認して、その後グループで話し合いを行いました。

最も印象に残っているのは、ある一人の生徒のことです。人の気持ちに寄り添うことに難しさを抱えているその子は、グループでの話し合いの中で「これは絶対あってはいけない違いだ」と強く主張していました。しかし、他の子と意見が対立した際、別の友達に「なあ、そうだよな」と同意を求めたのですが、その友達も同じ意見ではありませんでした。「僕の意見の方が正しい。」という確信が揺らいだ瞬間が垣間見えたのです。まさに、「自分の当たり前が当たり前じゃない」と気づく瞬間だったと思います。普段から担任として彼を見てきたからこそ気づくことのできた、小さいけれど大きな変化でした。

また、授業後の振り返りには「日本人の中にも違いがある」「自分の当たり前は当たり前じゃないんだ」という声がたくさんありました。私が生徒たちに伝えたかったことが届いていたことを実感できて、とても嬉しかったです。

Q. 同じように国際理解教育や開発教育の授業づくりをしている先生方へ、メッセージをお願いします。

国際理解教育や開発教育は、定義も捉え方も人によって違うし、正解がないものだと感じています。ある意味、国際理解そのものが正解のないテーマなんですよね。だからこそ、まず自分が大事だと思うことを伝えていくのが第一歩なのかなと思っています。

学校によってできることはまったく違うと思います。学校全体で国際交流をしているところもあれば、私の学校のように第一歩のハードルが高いところもある。でも、いきなり100じゃなくていいから、1でもいいから何かやってみることに意味があると思っています。

私は今年、数学の授業の中にも国際理解教育/開発教育のエッセンスを入れようとしています。1コマまるまる使うのではなく、冒頭の5分だけ世界の話をするとか、題材にちょっとだけ混ぜてみるとか、そういう積み重ねでいいのかなと思います。実際、中学1年生の負の数の導入の場面で「世界の気温」から数学の授業をスタートしたら、生徒たちの反応がとても良かったです。次はどんなエッセンスを混ぜようか、授業を考えていると自分もワクワクしてきます。

JICA海外協力隊のキャッチコピーは、「未来なんてきっかけひとつ」。JICA海外協力隊での経験が今の授業づくりにつながったように、私が行うある一回の授業が、あるひとりの生徒の世界への扉を開くきっかけになるかもしれない。そう思って、これからも実践を続けていきたいです。

JICA海外協力隊の帰国前に開催された送別会にて

赤羽 晋治 先生
長野県松本市立明善中学校 教諭
JICA青年海外協力隊(2023年度1次隊/ブラジル派遣/日本語教育)
2025年度JICA地球ひろば 国際理解教育/開発教育指導者研修 参加者

現職参加とは、現在お勤めの方が、休職などの形で所属先に身分を残したままJICA海外協力隊に参加することを指します。具体的には、公務員の場合は法律や条令、民間企業等の休職制度などに基づくものを指します。
JICAでは、所属先による雇用継続を支援するため所属先に支給する「現職参加促進費」を導入する等、より現職参加しやすくするための制度を設けています。また、派遣期間と訓練期間等の合計で2年間とすることのできる「派遣期間選択制度」も設けています。
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※教員の方には、『現職教員特別参加制度』もあります。
▶︎ 詳しくはこちら 

昨年度赤羽先生が参加された「JICA地球ひろば主催 国際理解教育/開発教育指導者研修」について、今年度も参加者を募集しております。(応募締切:2026年6月1日(月)午前10時)

本研修は、国際理解教育/開発教育の授業実践経験がある全国の小・中・高校、特別支援学校、高等専門学校等に勤務する教員を対象に、学習指導要領の「持続可能な社会の創り手」の育成を念頭に、国際理解教育/開発教育に関するこれまでの知見や事例の共有を通じ、効果的な授業作りと実践を行うことを目的としています。
グローバルな視点や地球規模の課題意識を育み、身近なところからより良い世界の共創に向けて主体的に考え行動する児童・生徒の育成を目指しています。
2018年度からは、日本国際理解教育学会にご後援を頂き、アドバイザーの先生方に専門的なアドバイスを頂いて実施しています。

編集後記

「違って当たり前」―言葉にするのは簡単でも、自分の中に根付かせるのは簡単ではありません。赤羽先生のお話を通して、開発教育とは特別な授業を一度行うことではなく、日々の小さな積み重ねなのだと感じました。「未来なんてきっかけひとつ」。どこに落ちているかわからないそのきっかけが、いつかある一人の生徒の世界への扉を開くことにつながってほしいと思います。


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