AIの急速な発展や気候変動、価値観の多様化など、子どもたちを取り巻く社会は大きく変化しています。こうした時代の中で、学校は何を大切にし、どのような学びを育んでいけばよいのでしょうか。SDGs達成期限が近づく今、国際社会では教育のあり方そのものを「再想像」する議論が始まっています。今回は、その最新動向を踏まえながら、これからの教育や授業づくりを考えるヒントについて、一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)の木村大輔氏にお話を伺いました。

▼目次

Q. 現在、SDGsやESDをめぐってどのような動きが広がっていますか?

2026年7月現在、SDGs(持続可能な開発目標)の達成期限である2030年が目前に迫っています。国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)の『Sustainable Development Report 2026』によれば、世界でSDGsのターゲットの16%が達成可能な見込みで、東アジアや南アジアなど一部の地域で急速な進展が見られる一方、全体としては軌道を外れている目標も多く、特に気候変動や生物多様性、一部の教育指標などでは停滞、あるいは悪化している課題も浮き彫りとなっています。
日本ではSDGs指標においてランクを落とし20位となっていて、ジェンダーや水、エネルギー、労働環境、イノベーションにおいては向上が見られるものの、飢餓、不平等や気候変動に関わるゴールにおいて大きな変革が求められている状況です。

こうした現状を受け、国際社会ではすでに「SDGsのその先」を見据えたポスト2030の枠組み策定に向けた動きが活発化しています。教育分野においても、2026年7月に開催された各国の首脳陣が集う「教育変革サミット+4」において、若者を「大人が作った教育の受益者」から「共に創る者」へ、学校経営やカリキュラムに若者を組み込むことが宣言されました。その他、生涯学び続けるために必要不可欠な「社会・情動スキル」の推進、デジタル教育とAIを選択ではなく当たり前に組み込むこと、教師不足に向けた対策、そして気候変動と教育など、2030年以降の新たな教育の優先事項が定められました。同時に、OECD(経済協力開発機構)も、未来を創る学びの羅針盤を示した、国際的な教育改革の指針となるEducation 2040というプロジェクトを進めています。自分と社会全体のウェルビーイングの実現に向け、AI時代に何を学ぶのか、主体的に社会に関わり変化を起こす力(エージェンシー)や学びの生態系について、2040年の社会と学習者と教師の姿を模索しているところです。 

2.  学びを「再想像」する時代へ

Q. その動向は、日本の教育現場や子どもたちの学びにどのような影響を与えると考えますか?

こうした国際的な動向は、日本の教育現場や子どもたちの学びに大きなパラダイムシフトをもたらします。その方針を示したものが、ユネスコが2050年の社会を見据えて発表した『未来の教育』報告書です。ここでは教育を「新たな社会契約」と捉え直し、教師が「教える」こと、知識を「習得」することなど、これまでの社会的な「当たり前」を問い直し、未来に向けて「私たちは何を継続すべきか、何をやめるべきか、そして何を創造的に再想像(再構築)するべきか」という3つの本質的な問いが投げかけられています。これは現行の学習指導要領でもよく言われていることだと思います。

これを具体化するため、ユネスコは加盟国全会一致で2023年に「ユネスコ新教育勧告」を採択し、各国の教育施策への勧告を出しています。この内容では、平和と人権、持続可能な開発の実現に向けた「14の主導原則」と「12の学習目標」が示され、その実現に必要となるカリキュラムや多様な評価軸、組織のあり方などについての方策が示されています。そこでは、単なる知識の習得から、学習者や教員のウェルビーイング、多様性の尊重、ケアの倫理といった「社会・情動的な学び」への転換が強く求められています。

日本の次期学習指導要領をめぐる議論も、まさにこの世界的な潮流と軌を一にしています。2024年末に文部科学大臣から中央教育審議会(中教審)へ諮問が行われ、2025年秋には次期改訂の方向性を決定づける「論点整理」が公表されました。現在、2030年度からの小学校での本格実施に向けた各教科のワーキンググループによる大詰めの議論が進んでいますが、次期指導要領や教育振興基本計画では「ウェルビーイングの向上」と「民主的で持続可能な社会の創り手育成」が確固たる理念として位置づけられています。今後、探究学習を軸としながら、より柔軟で多様性を包摂する教育課程への移行がいっそう進んでいくことになります。

3. AI時代だからこそ大切な「対話」と「協調」

Q. 特に教育現場で重要になる視点や、これから児童・生徒に求められる力は何だと思いますか?

これからの時代、児童・生徒に求められるのは、予測不可能な社会において「正解のない問い」に向き合い、自らの人生や社会をより良くしていく主体性(エージェンシー)です。OECDのラーニング・コンパス(学びの羅針盤)やユネスコの変容的教育、そして次期学習指導要領が共通して目指すのも、まさにこの力に他なりません。

特に教育現場で重要になるのが、「AIとの共生」と「対話・協調」の視点です。生成AIが高度化し、日常的に活用される現在、単に情報を検索し整理するだけの作業は容易にAIに代替されます。だからこそ、人間ならではの「批判的思考力」や、AIが出力した情報を倫理的な観点から吟味し活用するリテラシーが不可欠です。

同時に、多様な価値観を持つ他者とリアルな場で「対話」し、感情を共有しながら協調して課題解決に当たる経験が、より一層価値を持ちます。教室は、自分とは異なる背景を持つ人々と出会い、時には意見が衝突したりすると思います。その中で対立や摩擦を調整し、寛容さや信頼を築いていきコミュニティを形成していく「民主主義の実践の場」です。世界と繋がり、地球の限界を意識しながら、ローカルな課題に当事者として取り組む「グローバル・シチズンシップ(地球市民意識)」が、すべての子どもたちに求められています。

Q.  今後の授業づくりや探究学習を考える上で、先生方が意識すべきポイントがあれば教えてください。

こうした変化の中で、日々の授業づくりや探究活動において先生方に意識していただきたいのは、「余白のデザイン」と「ともに学ぶ伴走者としての姿勢」です。

探究学習では、最初から教員がゴールを決めすぎず、生徒が「もやもや」しながら自ら問いを立て、試行錯誤する「余白」をあえて残すことが重要だと考えています。現実社会は二元論では終わらない事ばかりなので、綺麗に終わる必要はないと思います。ただ、仮にSDGsを扱う際も、悲観的な現状分析で終わらせるのではなく、「では、私たちはどんな未来を創りたいか?」という未来志向のビジョンを大切にして欲しいと思います。技能系の教科と連動し、アートやものづくり等の表現も交えながら対話の中から描くプロセスをより組み入れていくのもお勧めしています。教科書には、こうしたテーマを扱っている内容がたくさんあります。その単元の中で先生もわからないけど一緒に考えたい問いを投げかけ、生徒とともに対話する時間を持つだけでも小さな変化を生み出すことができるのではないでしょうか。

また、学校経営においても、教員同士が「今の学校体制で何を継続し、何をやめ、何を再構築するか」を議論することが重要です。先生方自身のウェルビーイングを大切にすることが、子どもたちの豊かな学びを支える最大の基盤となります。

5.  未来を、ともに再想像する

Q. これからの時代の学びについて、感じていることや期待していることをお聞かせください。

「持続可能な社会の創り手」を育む教育とは、決して新しい業務を現場に押し付けるものではなく、これまで大切にしていた教育活動や意味を再確認しながら、目の前の子どもたちが自分自身や他者を大切にし、未来に希望を持って生きるための土台をつくる営みそのものです。

AIやテクノロジーがどれほど進化しても、人と人が向き合い、思いやり(ケアの倫理)を持ってともに学ぶ教育の温かさと本質的な価値は変わりません。先生方がご自身の「やりがい」を大切にしながら、わからない、先生が知りたいことを子どもたちと一緒に学び、悩み、未来の教育を対話をしながら「再想像」していくこと。その日々の実践の一つひとつが、社会を公正で持続可能なものへと変容させる確かな原動力になると、私は強く信じ、期待しています。

木村 大輔 氏

(一社)グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)
理事/グローバル教育プロデューサー
ユネスコ アジア太平洋地域グローバル・シチズンシップネットワークメンバー
UN-SDSN Mission 4.7 グローバルネットワークパートナー

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編集後記

AIが急速に進化する時代だからこそ、人間ならではの対話や協調、お互いを思いやり尊重し合う温かさが、これからの未来をつくる大切な力になっていくのではないかと感じました。先生方が自分自身も大切にしながら、子どもたちとともに考え、学び合う。そのような関係性の中から、新しい教育の可能性が生まれていくのだと思います。未来は誰かが用意してくれるものではなく、私たち一人ひとりの対話や関わりの中から生まれていくもの。そんな希望を胸に、未来の教育をともに描き、創っていけたらと思います。


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